大理石ダイニングテーブル
当初お店からのご紹介で伺ったY様邸。実はご両親がお住まいだったころからお世話になっております。
2階が回廊のような形式で大きなお住いでしたが,経過年数の関係もあっていろいろ不都合もあり,取り壊して新築されました。敷地内ではまだ工事が続いています。Yさんは昨年末からお住いになっているそうですが,使い始めた天然大理石のダイニングテーブルに,拭いても消えない跡ができてしまい,気になるのだそうです。
その様子を写真で見せてもらったのですが,ちょうど湯飲みのいとじりのサイズです。使い始めて間もない,段差は感じないけれど爪がかかる感じということですから,800番から手磨きすれば比較的短時間で復元するとイメージしました。そして,今後のこともあるので高品質のコート剤で保護してあげると良いのではないでしょうか。
打合せとお見積りの上,先月19日に行ってきました。その様子がこちら。手磨き800番から始めましたが,1500番から仕上がりに難を感じてハンドポリッシャに移行しました。機械を使えば早いしキレイに仕上がりますが,とぎ汁が飛びます。簡易的な柵を作って作業。写真は4枚。作業前,800番,1500番,3000番です。
Yさんが「勉強して技術を身に着けたんでしょう?すごいですね」と喜んでくださいます。
沖縄の稲福さんと,東京の狐塚さんの大理石再生技術がすばらしいな~と感じていたら,新井田さんを紹介されました。新井田さんのブログを見ると,信じられないほど美しい仕上がりですが,誰でも出来るって書いてあるんです。その新井田さんが講習会を開いてくれるっていうのですから,行かないわけにいきません。
そう思って3日間の講習に出たのが15年2月「ストーンケアスペシャリスト養成講座」でした。次の年の4月には,「実践編」の案内があって,自分のポリッシャーを使って磨く機会をもらいました。素晴らしい体験でした。
そして新井田さんがおっしゃっていたように,大理石研磨再生は深い満足感を与えてくれます。大理石は何万年もかかってできた地球の記憶です。人間の寿命よりはるかに長く使える財産です。たとえいくらか痛んでも,状況に適した資材を用いれば,鏡面再生します。地球に,そして神様に「大事に使っています」と報告できる感じが格別です。
横道にそれて恐縮です。
Y様邸テーブル,跡はうまく消せたのですが,よく調べると同じような輪状の艶とびが他にもありますし,何かしぶきが飛んだように見えるものなど,数か所に異変が見られます。
この石は,イタリア原産のグレジオカルニコではないかと思います。写真で見るといくらか茶色がかって見えますが,グレーです。グレジオカルニコという石種についていしらべから引用します。
名前の通り灰色の大理石です。地の色は濃い目のグレーから黒に近い色をしています。その中に白い模様がランダムに入っています。糸のように細いものから帯状になっているものまで、不均一な柄になっています。派手さはありませんが、色の具合から重量感と落ち着いた佇まいを見せてくれる大理石です。キズが多いので、割れたり欠けたりすることがあります。特に柄の多い場所は顕著なので、やさしく取り扱って下さい。石灰岩の一種で炭酸カルシウムが多く含まれています。ですから酸やアルカリに弱く、そのような液体がかかると表面がざらついた感じになってしまいます。
大理石研磨は,番手の粗いもので傷んだ場所を磨いて跡を消し,それより細かい番手で研磨痕を消していきます。上の写真で見ていただいたように,番手が細かくなるほど作業範囲が広がります。ですので複数個所を一つずつお手入れしていくと大変時間が掛かります。(傷や痛みが深い場合も,より粗い番手からスタートするため,工程が増えて時間がかかります)。
14インチポリッシャーを使って全部磨きなおすのはどうでしょう。
機械を使って磨く場合は,たっぷり水を使いたいです。テーブルを外に運び出すことはできないでしょうか。大きな開口の掃き出し窓があります。ですがテーブルが重くて2人では運べません。2200×1000mmの大きな天板ですので,天板だけで150㎏あるかもしれません。さらに鋼鉄製のフレームが下をがっちり支えています。全部でアップライトピアノクラスでしょうか。しかも,Yさんがお店から聞いたところでは,2人で動かそうとすると,石がゆがんで割れる可能性があるとのことです。
ここから動かさずに,ポリッシャーで磨くために,飛び散る水でお部屋を汚さないように養生が必要です。改めてお見積りを差し上げました。こちらとしてもかなり高額だと思います(汗。
テーブル面から飛んだり垂れたりする水がお部屋を汚さないように,また自然にバケツにたまるように養生を工夫します。研磨は800番,1500番,3000番あるいは5000番の3工程です。仕上げに大理石テーブル専用のコート剤を塗り込む想定です。
養生の様子です。Yさんに許可を得て,椅子を4脚使わせてもらいました。背もたれの高さに支持棒を渡すとちょうど良い柵になります。テーブルの側面にぐるっと貼り付けたマスカ1100mmは4隅は持ち上げて辺の中央部を一番深くたるませました。水を注いで位置を確かめたら下にバケツを置いてハサミで切り込みを入れます。これで,天板から垂れた水や柵に当たる水しぶきが自然にバケツに向かいます。
目には見えるのですが,写真に撮りにくい艶とび。これは液体のしぶきを想像させる形状です。オレンジジュース,ワイン,炭酸飲料などで,拭き取られるまでの時間によって跡ができてしまいます。
今日はペンダントライト(最初の4枚に写り込んでいる大きなヒマワリ型)がありません。ものすごく重いし,比較的低い位置にあったので,ポリッシャー使用に際してどうしたものかと思っていたのですが,修理調整が必要で引き揚げられているそうです。グッドタイミング。
800番で下地を作ります。白っぽくツヤを失っています。この時に,気になる跡をしっかり消す必要があります。
新井田さんが絶賛されていた日本研紙1500番。いま扱われている物とはレジンのパターンが違います。2枚目は1500番研磨終了時。
迷ったのですが,最終研磨はノリタケ5000番を選びました。研磨が終わってから養生をすべて回収。周りにしぶきを飛ばすことなく,床を濡らさずに終了しました。養生大成功でした。
次の2枚は,コーティング剤が乾いてから撮ってあります。コート剤の設計としては膜を作るために塗りっぱなし推奨ですが,風合いが変わりますし,ほこりや抱き込みも見えてしまいます。塗ったら余分をふき取ることにしました。比較的早い乾燥時間を生かして,ふき取り後乾燥を4回繰り返しました。
1時間足らずで指触乾燥しますが,コート剤の設計硬度まで上がるのに1週間ほどかかるそうです。テーブルを使っていただいて結構ですが,何か置く場合にはランチョンマットなどをお使いください。(Yさんはすでにそうしていらっしゃいます)。何かこぼしたり濡れたりしたら,すぐ拭き取るようにお願いします。とはいえ,液体を弾く防御感はすぐに実感できます。
思ったより研磨に時間を取られてしまったのですが,何とか目標の時間にお引き渡しできました。新築したばかりのお宅ですが,お掃除のお悩みはつきものです。水あかのことを考えるとがっつり固くなる間に早め早めに手を入れると良いと思います。美観維持のお手伝い,やらせてください!
手の切れそうなお札でお支払い。飲み物を頂戴して撤収しました。Y様,このたびは当店へのご用命をありがとうございました。大変貴重な経験になりました。
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