大理石テーブル天板の研磨とコーティング
高崎市の高級インテイリア店からの問い合わせで,大理石テーブル天板の研磨再生や,コーティングをさせてもらうことになりました。
目地無し1枚物の大理石を磨くことはそれほど難しくないのですが,大量の水を使いますし,しぶきが飛びます。また,テーブルに最適なコーティングが分かりません。理想は透湿膜を作るコーティング(水分ははじくけれど,石内部からの湿気は抜ける)ですが,テーブルの場合は炭酸やワインで表面が簡単に変質してしまうんです。ですので,飲み物などの液体からしっかり保護するためには,膜を作るコーティングが必要です。
透湿膜を作るコーティングは,塗ってあるかわからない仕上がりですが,膜を作ると「塗ってあるな」という仕上がりになります。
膜を作るといっても,ほこりがない工場で何度も吹き付けて究極の平滑面にするわけではありません。すでに納品済みのお宅の中で加工します。塗り方はいろいろあると思うのですが,当店の場合は重ね縫いしたタオル生地を使います。毛羽が出ないように,かなり念入りに加工した特別なタオルです。
毛羽が出ない,ほこりを抱き込まないように塗るのは当たり前,それよりも「塗り筋」が残らないように,上手に伸ばさなければなりません。
そんなわけで,サンプルでコート剤の仕上がり具合,飲み物への耐久性,コートがうまくいかなかった場合にどのような方法でやり直しができるかを確かめました。それでも,実物でやってみると,思わぬアクシデントが起きます。
3月,Y様のお宅で大理石テーブルに取り組んでいるところに,「同じテーブルで,傷が見えてしまっているものを直せますか?」と問い合わせがありました。傷は消せます。送ってもらった写真を見て,ここだけ磨くと,逆に光沢が上がりすぎて目立つかもと思い,全体の研磨とコーーティングを提案しました。
ご注文があり,日程も決まったのですが,外出自粛になってしまい,一時見合わせになりました。先日,再注文があり,具体的に日程も上がっていたので,本日でお請けしました。菅谷町S様邸です。
新築間もないお宅で,テーブルも思っていたよりずっと良い状態です。まずは養生から。大変恐縮ながら,椅子を4脚お借りします。椅子の背もたれの高さがちょうどよく,この高さで竿を渡すと,1100ミリのマスカを使って簡易ドレンパンができるんです。
傷が見えますか?
爪がかからないくらいの傷でしたが800番では到達できなかったので,NCA400番から。
400番の傷が目立たなくなるまで800番で磨きます。
800番の外側まで1500番で磨いて様子を見ます。
これで行けそうです。ここからはあっと驚く14インチポリッシャ―登場。全体を1500番で磨きます。
この状態で,傷のあった場所や周辺の曇りは完全に見えなくなっています。
3000番まで磨いて養生を剥がしました。もっと番手を上げることもできますが,シリコーンコーティング前提なので,3000で十分です。
いろいろな試行錯誤の過程で,コート剤の前に下地を入れることにしました。
プライマーはかなり溶剤のニオイがします。Sさんもかなり大変だったご様子で,換気のことをお尋ねでした。こちらとしてもバンバン換気してほしいのですが,例えば天井に近い縦滑り窓なんかを開けた日には,テーブルに砂が降るリスクがあります。ですので,テーブルに直接風の当たらない窓を開けてもらいました。大変ご不便をおかけしております。
プライマーは30分で乾くので,1時間後にコーティング。実際にはプライマーも拭き取って塗りなおし,上塗りも拭き取って塗り直ししています。冷や汗が流れます。そのたびにSさんに「仕上がりが30分遅れます…1時間遅れます。…2時間遅れます」。
そんな紆余曲折を経て,何とか塗りあがりました。
膜があるので,どうしても何か塗ってあるな,という感じがします。まあこれは大理石研磨をしている私どもの感覚でしかなく,一般の方にはわからないかもしれません。ただこの膜によって,水,洗剤,アルコール,炭酸に全く反応しない使いやすいテーブルになります。もちろん傷も入りません。大理石天板が4H(爪の硬さ),このコート剤は9Hです。
Sさんは,側面の立ち上がり(わずか15ミリほど)が輝いたのが嬉しいとおっしゃいます。そうですね,宝石もエッジがきらきらするから美しいんですよね。
Sさんにもお話ししたのですが,大理石は地球の記憶と言える宝物で,何十万年もかかって独特の美しさに仕上がった芸術品です。石種はありますが,どの石もそれぞれ違います。こうしてテーブルに仕上がったものなどは,それが顕著です。どうぞ,我が家に来たこの石を可愛がってあげて下さい。これから何十年,何百年と使える可能性があります。
お飲み物を頂戴して撤収。丸1日,S様大変長い時間ありがとうございました。猫ちゃんも良く辛抱したね!
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